コラム

近年注目される「フリーランス保護新法」の制定により、働き方や契約ルールが大きく変わります。本記事では、法律改正の背景やポイント、現行法との違い、実際の保護内容や今後の影響まで詳しく解説。フリーランスが安心して働くために必要な最新情報や注意点、トラブル予防策がわかります。

1. フリーランスを取り巻く現状と課題

1.1 日本におけるフリーランス人口と業種

フリーランスは年々増加しており、日本国内では2023年時点で約1,670万人がフリーランスとして何らかの仕事に従事しているとされています。主な業種はITエンジニア、ウェブデザイン、ライター、カメラマン、コンサルタント、クリエイター、翻訳家など多岐にわたります。特にリモートワークや副業解禁の流れを受け、多様な雇用形態やプロジェクトベースの業務契約が拡大しているのが特徴です（経済産業省 フリーランス実態調査）。

1.2 これまでのフリーランスの法的立場

これまで日本におけるフリーランスは、雇用契約の労働者と異なり、民法上の「請負」や「委任」契約に基づいて業務を受託してきました。しかし、労働基準法や労働契約法の適用対象外であることから、労働時間の管理や最低賃金、労災保険などの法的保護を受けられませんでした。「個人事業主」としての自由な働き方がメリットである一方、社会保障やセーフティネットの面で大きな課題が存在していました。

1.3 トラブル事例と保護の必要性

フリーランスが直面する典型的なトラブルとして、「報酬の未払い」「発注内容の一方的な変更」「契約解除」「過度な納期短縮」などが挙げられます。また、業務中のハラスメントや、自身では交渉しにくい立場に置かれることも多く、経済的基盤が不安定になりやすい現状があります。このようなリスクの高い環境下で働くフリーランスを守るために、法的な保護強化や取引の明確化が急務とされてきました。特に近年は、ITやクリエイティブ分野などにおけるフリーランス需要の拡大に伴い、健全な取引環境の整備が社会的な課題となっています。

2. フリーランス新法の概要と成立の背景

2.1 働き方改革との関連

日本社会では「働き方改革」の推進を背景に、多様な働き方が重視されるようになっています。とりわけ、副業や兼業、独立など従来の雇用形態にとらわれないフリーランスの増加は、政府が掲げる柔軟な労働市場の実現と密接に関連しています。安倍政権時代から進められてきた「働き方改革実行計画」には、個人事業主やギグワーカーも含めた労働者全体の環境改善が明記されており、その一環としてフリーランスの法的保護が検討されてきました。

これまでは企業に雇用される正社員や非正規雇用者の待遇改善や多様な就労形態を持つ人々のセーフティネット導入が進められてきましたが、フリーランスに特化した法律は不十分でした。このため、フリーランス新法は「働き方改革」の具体的成果の一つとして位置づけられています。

2.2 フリーランス保護新法の目的

フリーランス新法――正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律（いわゆるフリーランス保護新法）」――の主な目的は、フリーランスが取引先と公正かつ対等な関係を築き、安心して働くことができる取引環境を整備することです。

この法律では、不当な取引や報酬未払い、急な契約変更、ハラスメントといったトラブルに対し、明確なルールや救済措置の導入を図っています。従来は下請法や労働基準法の枠組みでは保護されにくかったフリーランスですが、本新法により契約内容の明示義務や報酬支払いルール、事業者への指導・勧告・命令・罰則といった新たな規定が設けられました。

その背景には、コロナ禍以降のリモートワーク普及や経済構造の変化により、フリーランスとして働く人が増加し、従来よりも多様な業種でフリーランスが社会的に不可欠な存在となった現状があります。

2.3 国会での議論と経緯

フリーランス新法の誕生には、2010年代後半から繰り返されてきた国会や関係省庁、経済団体、労働団体での議論が大きく影響しています。日本経済団体連合会や連合などの要請、内閣官房や厚生労働省、消費者庁、公正取引委員会などによる協議を経て、不当な契約慣行の問題点やフリーランスの「労働者性」を巡る線引きが明確化されました。

2021年に成立した「フリーランス・事業者間取引適正化ガイドライン」や、公正取引委員会による取引実態の調査報告（公正取引委員会 報道発表）などが、法律制定の土台となっています。その後、与野党を超えた法案審議、パブリックコメントや関係業界団体からのヒアリングを経て、2023年4月に本法律が可決・成立しました。

フリーランス新法は、時代の変化に応じた働き方を守るため、また経済や地域社会の活性化に寄与する人材多様性の確保という観点からも、大きな社会的意義を持つ法律です。今後も改正や細則の制定が続くことが予想されており、最新の議論動向を注視する必要があります。

3. フリーランス新法で定められた主な保護内容

3.1 取引の透明性向上と契約書面交付義務

フリーランス新法（正式名「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」）では、発注側企業に対し、業務委託契約時に契約内容を書面もしくは電子メールなどで明示することが義務付けられました。これにより、仕事内容・報酬額・納期・支払い時期など契約条件が明確にされ、トラブルの防止と透明性確保が図られています。書面交付義務違反には行政指導・命令が科せられる場合があります。

3.2 報酬未払いトラブルへの対応強化

フリーランスへの報酬支払いが遅延・未払いとなった場合、フリーランス新法は迅速な支払いを発注側に義務付け、正当な理由なく30日を超える支払遅延は禁止されています。法令遵守が求められることで、納品後に報酬が受け取れないという深刻な問題への抑止力となります。また、不当な報酬減額や一方的な支払い条件変更も禁止されています。

3.3 ハラスメント防止措置の義務化

近年、発注者からフリーランスへのパワハラ・セクハラなどが社会問題となっています。新法では、フリーランスに対するハラスメント行為を防止するため、発注企業に相談窓口の設置や適切な体制整備、迅速な対応などの具体的措置が義務付けられています。これにより、安心して業務に取り組める環境整備が進みます。

3.4 取引先企業への規制と罰則

新法では、発注企業に対し、契約内容の明示や適正な報酬支払い、ハラスメント防止措置違反など、法律違反行為への行政指導や、命令違反時の罰則（二十万円以下の過料）が設けられました。この規制強化により、フリーランスの立場を保護し、不公正な取引を未然に防ぐ体制づくりが国全体で進められています。

これらの保護措置は、フリーランスが継続的かつ安心して仕事を受注し、健全なビジネス環境のもと活躍できる社会の実現を目指すものです。最新の法改正内容や詳しい施行状況については、経済産業省「フリーランス法特設ページ」などの公的情報もご参照ください。

4. 改正点とフリーランス保護法の詳細内容

4.1 旧法との違いとポイント解説

2023年に成立した「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律（いわゆるフリーランス新法）」は、従来の下請法や労働法では必ずしも十分にカバーされていなかったフリーランスの保護を目的に制定されました。これまで日本では、フリーランスは「個人事業主」として扱われ、企業と対等な立場の独立した存在とされてきましたが、現実には報酬の未払い・契約内容の不透明性・ハラスメントといった課題が指摘されてきました。

フリーランス保護法の特徴的な改正点として、取引時の契約書面交付や報酬支払い期日の明示など、企業側の義務が明確化されたことが挙げられます。従来の下請法ではカバーされなかったIT、クリエイティブ、デザイン、ライティング、動画制作など多様な業種のフリーランスにも適用範囲が拡大し、幅広いフリーランス人口を保護の対象としています。

4.2 フリーランスとして知っておきたい注意点

法改正によって環境が改善された一方で、フリーランス本人も法令の内容や自身の権利・義務を正しく理解することが重要です。契約や報酬トラブルへのセルフチェック、正しい手続きの理解は、トラブル回避の第一歩となります。

4.2.1 契約締結時の注意

新法の施行により、発注者は契約を締結する際に、契約内容を明記した書面または電磁的記録（メール・PDF等）を交付する義務があります。フリーランスはこの「書面の交付・保存」を徹底し、不明点や曖昧な表現のまま業務をスタートしないことが大切です。口頭のみの契約はリスクが高まるため、必ず契約内容や報酬、納期、成果物の範囲など具体的な事項を確認しましょう。また、電子契約サービスやメールでのやり取りも記録として有効です。

4.2.2 納品と報酬支払いのルール

フリーランス新法では報酬の支払い期日を原則「納品日から60日以内」と規定しています。報酬に関する条件や支払い方法、遅延時の対応についても契約時に必ず明確化し、書面に記載しておく必要があります。

また未払い・遅延が発生した場合には、行政への相談や報酬支払いの請求が可能となり、企業側にも報酬未払い時の指導や勧告、命令、違反時の罰則（命令違反で最大20万円の過料）などが設けられました。

4.2.3 ハラスメントや不利益取扱いへの対処法

新法によって企業側には「フリーランスに対するハラスメント防止措置」の義務化が明記されました。これにより発注者の不当な圧力やセクシュアルハラスメント、パワーハラスメントに対して相談・苦情受付の体制整備や、被害時の適切な対応が求められます。

フリーランス自身も、ハラスメントや不利益取扱いを受けた場合には、書面等で証拠を残し、相談窓口（独立行政法人労働者健康安全機構や公正取引委員会など）へ早期に相談することが推奨されます。こうした行政機関との連携によって、自身の権利を適切に守ることが期待されています。

5. 今後の動向とフリーランスへの影響

5.1 新法施行後のフリーランス環境の変化

2023年に成立したフリーランス新法（フリーランス・事業者間取引適正化等法）は、取引の透明性向上や報酬未払い対策、ハラスメント防止措置の義務化など、実効性の高いルールが定められたことで、フリーランスを取り巻く環境は大きな変化が期待されています。従来は口約束で契約内容が曖昧なケースや、収入の不安定さから対等な取引が難しい状況も指摘されていましたが、本法の施行以降は業務委託時の書面交付義務や企業への罰則が設けられたことで、フリーランスの法的保護が強化されました。また、行政への相談窓口が整備されたことにより、トラブル発生時も安心して相談できる環境が整っています。

5.2 企業側の対応とビジネスモデルへの影響

新法はフリーランスだけでなく、発注企業側にも大きな影響を及ぼしています。契約時の書面化や報酬支払い規程、ハラスメント防止措置といったコンプライアンスへの対応が不可欠になり、業務プロセスやビジネスモデルの見直しが進められています。特に、IT、クリエイティブ、メディア、コンサルティングなど多様なフリーランスが関わる業界では、従来の慣習に依存した契約形態から、適正な取引慣行の導入が加速しています。一方で、法律遵守にかかるコスト負担や事務作業の増加を懸念する声もあり、クラウドソーシング企業など仲介プラットフォームの役割拡大も予想されます。

5.3 今後予想される追加法改正や議論

フリーランス市場の拡大と働き方の多様化を受け、今後も行政や関係省庁、業界団体を中心に、実態を踏まえた柔軟な法改正や基準見直しが進められる見通しです。例えば、育児・介護と仕事の両立支援、個人事業主の社会保険適用範囲の拡充、AIやデジタルプラットフォームを活用した取引の新たな規制枠組みなど、多角的な議論が予想されています。また、新法の運用状況や実効性を検証し、必要に応じてガイドラインや指導強化、違反事例への対応方針が改訂される可能性も高いです。

最新の法改正や政府方針については、経済産業省「フリーランスに係る取引適正化」ページなどの信頼性の高い一次情報を定期的に確認することが推奨されます。

6. フリーランスが新法を活かすためにできること

6.1 新法の内容を理解する重要性

フリーランス新法が施行されたことで、個人としての働き方がより明確に保護される時代になりました。新法の趣旨や具体的な内容を正しく理解することは、自身の権利を守るうえでも不可欠です。 また、万が一トラブルが発生した場合も、「どのような場面で自分が法的保護を受けられるのか」を知っておくことで、適切な対応が可能になります。

とくに、契約締結の際に必要となる書面交付義務や、報酬支払いのルール、ハラスメント防止に関する措置義務など、事業主・受注者双方の対応が明文化された点に注目しましょう。

6.2 トラブル回避のためのセルフチェックポイント

フリーランスとして新法を活かすためには、日常的に自身の取引や業務をセルフチェックすることが重要です。以下のポイントが挙げられます。

• 案件ごとに必ず契約内容を書面（または電磁的方法）で確認・保管しているか
• 納期や成果物の内容、報酬額、支払い期日などを明記した契約が交わされているか
• 報酬の支払い遅延や不利益取扱いについて、事前に対策を講じているか
• ハラスメントやパワーバランスの違いによるトラブルに、相談できる窓口を把握しているか
• 相手先から一方的な契約条件変更や不当な圧力があった場合の対応策を知っているか

日常の業務管理をこまめに行うことで、万一のトラブル時も適切に権利を主張できる環境を作ることができます。

6.3 相談窓口や行政機関の活用方法

実際にトラブルが発生した場合や、疑問を感じた際は、国や自治体が設けている相談窓口や支援制度を積極的に活用しましょう。

主な窓口としては、厚生労働省「フリーランス・トラブル110番」や、公正取引委員会などが利用できます。
また、経済産業省では、取引に関するガイドラインや具体的な事例集も公開されており、最新の情報収集にも有用です。

専門の士業（弁護士・社会保険労務士など）に相談する際の費用支援や情報提供も拡充されていますので、「泣き寝入り」を避けて適切な相談をすることが、より健全なフリーランス環境の実現につながります。

7. まとめ

フリーランス保護新法の施行により、契約書面の交付義務や報酬未払い・ハラスメント対策が強化され、今後はより安心して働ける環境が整います。フリーランスは新法内容を正しく理解し、適切な対応を取ることが重要です。疑問やトラブル時は、厚生労働省や公正取引委員会などの相談窓口を積極的に活用しましょう。